2016年11月5日・6日、2年前に日本初開催を遂げたKNOTFESTが帰ってきた。
日本におけるラウドロックの新たなる伝説を打ち立てた、その影響と功績はあまりにも大きい。
激音とは何たるか、ダークカーニバルとは何たるか、悪夢のような中毒性を伴う狂喜の2日間が再び蘇る。
小春日和の穏やかな陽気の中、ド快晴の青空とは対照的に、幕張の駅前にはズタボロのダメージファッション、前回のノットフェス2014Teeをはじめとしたエッジーなデザインが飾るTシャツ、果てはグロテスクなフェイスマスクの数々。国籍も様々に入り混じる異質な群衆は、広大な幕張メッセへと吸い込まれていく。熱狂のダークカーニバルが帰ってきたのだ。
そんなムードも会場内に足を踏み入れれば、皆一様にお祭りムードに。フードエリアは午前中から活気溢れる喧騒に包まれ、オフィシャルグッズ売り場の長蛇の列も期待感に溢れている。そして開場して50分、早くもその期待をさらに加速させるべくオープニングアクトのステージが始まった。
この日のオープニングアクトは、THE SIXTH LIE、Survive Said The Prophet、jealkbの3バンド。この大舞台に出れた喜びと緊張による高ぶりが、それぞれのパフォーマンスに溢れ出ている。オーディエンスと同じ気持ちを共有した彼らのステージはフロアの共感を呼び込み、キッチリと場内の温度を上げていく。
「ブチコワセ!!!」。メインアクトとして第一弾の狼煙を上げたのはCRYSTAL LAKE。前回はオープニングアクトとして出演した彼ら。冴え渡るVo.RYOの咆哮、ハードコア要素を多分に内包した強靭なサウンドがオーディエンスのケツを蹴り飛ばす。続くOLDCODEXは「前代未聞、絵描きのいるバンド」。一見トリッキーなアプローチだが、衝動を伴った鮮烈なサウンドと、曲ごとに変容していくライブペインティングが見事な融合を果たし、彼らの世界観をより濃く表現する形態として機能する。そんなバンドのオリジナリティにおいて、さらなる輝きを放ったのが米アトランタ出身のISSUES。緩急巧みなリズムワーク、交錯するツインボーカル、抜群のグルーヴがオーディエンスの理性の鎧を剥ぎ取っていく。ラスト『HOOLIGANS』では力強いコーラスが会場を一つに。海外バンドの高い実力を見せつけられたところで迎え撃つは、連続出演となるcoldrain。バンドの真骨頂とも言えるドストレートかつ沸点を超えたエナジーは一瞬でオーディエンスを飲み込む。ステージ持ち時間の30分、一分の隙もない。去り際の“どうよ?”と言わんばかりのVo.Masatoの笑顔が印象的だった。
フェスは中盤、いよいよビッグネーム達のステージが近づいてくると、フロアの熱気もさらなる高ぶりを見せていく。響き渡るオーディエンスのコールに包まれてHoobastankの登場だ。Vo.ダグラスは縦横無尽にステージを駆け回りアオリたてる。溢れる笑顔からは、バンド自身がこのステージを楽しんでいることが伝わる。『Out of Control』でフロアのリミッターを完全に外したところで、名曲『The Reason』の大合唱へと誘う。これぞ百戦錬磨。続いて、ノットフェスという狂宴に相応しい、炸裂した祭囃子で口火を切ったのはRIZE。JESSEの高速RAPも冴え渡り、良い塩梅に気を吐いたMCも冴え渡る。本日随一のヤンチャバンドは、ストリートの感性をエンターテイメントに昇華したその真価を大いに発揮。そしてオープニングアクトから大抜擢されたa crowd of rebellion。その時間枠で予定されていたA Day To Rememberの出演が直前にキャンセルとなってしまったことは残念であったが、若き新潟のバンドが全身全霊で務める。片やエッジの立ったエナジーボーカル、片や空間に澄み渡るようなクリアボーカルによるツインボーカルというスタイルも、ここまでの男気満載な流れに変化と清涼を与える一幕となった。変化という面でサウンドでより幅を広げてみせたのはROTTENGRAFFTY。多ジャンルをミクスチャーしながらも常に感じさせる“和”メロ。耳を惹きつけ、全身への躍動へと伝播させるそのサウンドに、会場は熱狂のダンスフロアへと変貌。
これ程の豊かな個性とズバ抜けて高いパフォーマンスの応酬は、観る者に時間の経過も、疲労をも忘れさせる。それどころか、イベント終盤へ向けて、ますます温度は高まる一方だ。そこに登場するは、こちらも当然のお待ちかね、昨年復活を遂げたモンスターバンドDisturbedである。くるぶし丈の長衣をひるがえしステージを練り歩くVo.デイヴィッド・ドレイマン、その貫禄の佇まいに魅了され、フルレンジのバンドサウンドの壁を突き破る圧倒的なヴォーカリゼイションに息を飲む。メタルサウンドでの凄みは言わずもがな、楽器を持ち替え、さらにチェロとヴァイオリンを加えてプレイされたカヴァー『The Sound Of Silence』のクラシカルな響きと絶品の歌唱が染み渡る。そんなモンスター達への尊敬の念は示しつつも、国内モンスター級の人気を誇るSiMがその実力をキッチリ証明してみせた。激しさの中にも煌びやかなポップさをちりばめた楽曲群、圧倒的な運動量で広いステージをライブハウスと化したかのようなパフォーマンス。クラウドサーフ続出のフロアは、オーディエンスも全員が主役になれるような楽しい空間へと変わった。
そんなSiMのVo.MAHがMCで挙げた彼の中の3大バンドの一つは次なるDeftones。世界中のロックファンのカリスマの登場に、最後方までギッチリ埋まったフロアは絶叫にも似た歓声で迎え、バンドは容赦ない轟音を浴びせて応える。音の奔流はカオスなようでいて緻密に織り成されたアンサンブル。そして音にシンクロしたLED照明が明滅を繰り返し、もはや観るとか聴くとか、そんな次元を超えて、ただフロアに居れば理性を根こそぎ刈り取られる、そんな感じ。歓喜と陶酔の人海と化したフロアの景色をVo.チノ・モレノも称賛し、同時に自らもパフォーマンスを高めていくような様子も観て取れる。終演後には、周囲から口々にスンゲぇ〜…という声が漏れ聞こえる。能書きはいらないスンゲぇステージだった。
そして、全てオーディエンスが待ちに待った瞬間が訪れる。大トリSlipknot、それはド頭の一瞬で勝負アリ!だった。パーカッションを加えた破裂音にも近いビートはヒステリックに連打され、チェーンソーのごときツインギターと、ターンテーブル&サンプラーが脳ミソを攪拌する。世界屈指の殺傷能力を誇るVo.コリィのシャウトは問答無用に凄まじい。それぞれの音は交錯し、ぶつかり合い、全方位にハジケ飛ぶ、Slipknot独自のアンサンブルだ。さらに、2階層のステージセットと機械仕掛けの可動装置は絶大なるインパクトを与え、ステージ背面のLEDスクリーンからはグロテスクな映像が不快中枢をひたすら刺激する。全てが渾然一体となった狂気のエンターテイメントは、フェス開始から10時間、それまでの記憶を全て粉砕するかのような瞬殺の破壊力だった。この日は15年前にリリースした大ヒット作[IOWA]、1st[Slipknot]、そして最新作[The Gray Chapter]からの選曲が軸となったが、それぞれが節目の作品なだけに、ブレないバンドの初期衝動を痛感させるメニュー。身内の不幸により急遽来日できなかったリーダーのクラウン(Per./Cho.)がこの場にいないのは残念ではあるが、彼の不在を補う意味もあってか、終始8人の気迫がほとばしるパフォーマンスがまた圧倒的だった。
待望のKNOTFEST JAPAN 2016。世界一ラウドでヘヴィな音楽祭。初日は、世界のラウドロックの“今”を知らしめるようなラインナップだった。同時に、サウンドにある程度の焦点を絞ることで、バンドそれぞれの個性は際立ち、世界レベルの輝きを放つ。だからこそ飽くことのない興奮のるつぼたとなり得るのだ。11時間に及ぶ激音地獄は、逃れられない激音天国へと変わった。
(文:根本 豪)
初日に続き見事なまでの快晴で迎えた二日目。会場入り前に近隣のファストフードに立ち寄ると、そこには尖ったデザインのバンドTeeがチラホラ。よく見ればドギツい化粧に勤しんでいたり、よくよく見れば黒目のはずが白かったり黄色かったり……。穏やかな天気に恵まれた日曜朝のファストフードを悪魔の更衣室へと変えるノットフェス2016二日目、開催です。
というわけで、この日のラインナップもあって、開場直後の早い時刻から、様々な異形の者とすれ違う非日常な会場内。またその出足も良いようで、フロアもすでに賑わいを見せる中、オープニングアクトのステージへとなだれ込む。
二日目のオープニングアクトは、SALTY DOG、彼女 IN THE DISPLAY、魔法少女になり隊、THE冠。その名前からも感じるように、奇抜な個性が際立つ4バンドだ。バンドはそれぞれに気合いを十分発揮し、THE冠に至ってはメインアクトに匹敵するほどの盛り上がり。今日もブチアガる準備は万全だ。
SEと共に怪しげな空気が会場を覆う。全く謎に包まれたCRAZY N’ SANE、不気味なウサギ覆面が狂乱する。Limp Bizkitを彷彿とさせるミクスチャーサウンドは懐かしくもあるが、関係ねぇ!とばかりに突き抜けたパフォーマンスは痛快であり、フロアも即座に呼応する。そして、さらなる異質なオーラをまとって登場したのはMUCC。Vo.逹瑯の妖艶なる美しさと、表裏一体で吐き出される剥き出しの激情、この振れ幅が凄まじい。ノイズまみれの轟音に野太い喝采も飛び交う納得のステージだった。続くは今回が初来日のButcher Babies。キュートでセクシーな花柄ワンピース、まるでバービー人形のようなフロントウーマン2人。だが……曲が始まるや目を疑う豹変ぶり。片やヒステリックなスクリーム、片やボトムの効いた野獣のごとき咆哮。ブッ壊れドコロ満載の曲と2人の巧妙かつ強烈なくアオリで、みるみるフロアは沸騰。綺麗なネイルは想定外に鋭く、日本のオーディエンスに強烈な爪痕を刻みつけた。が、ここで日本の野獣もオスの意地を見せる。余韻のごとく漂う湿気まじりの熱気を完全蒸発させたHER NAME IN BLOOD。灼熱のメタルコアサウンドが渦を巻く。フロア後方まで広がる無数のコルナは美しくも血がたぎる光景だった。
その終了直後からは早速、スラッシュメタル四天王ことANTHRAXを待つオーディエンスの前のめりな熱気が充満。HR/HMやパンク/ハードコア、広くストリートカルチャーからも支持を受ける彼ら。その人気も健在だが、ステージは健在どころの騒ぎじゃない。観れるだけで幸せなGt.スコット・イアンの硬質なリフ、Vo.ジョーイ・ベラドナの伸びやかの歌声はいまだツヤッツヤに輝いている。ジョーイ在籍時、すなわち黄金期の楽曲が中心となったメニューに、合唱とクラウドサーフが耐えることはなかった。その空気をガラリと変えたのは、V-ROCKの第一線を突っ走るthe GazettE。耽美な世界と退廃的な闇が交錯し、独自の世界観を浮き彫りにする。30分の短いステージながらドラマティックに描かれた構成は、恐らく初見であろうラウドロック・ファンの目も釘付けにしていた。
ここでフェスは折り返しに突入。いやぁ濃い! 初日に比べて多様性に富んだ内容は、刺激の変化を楽しませると同時に新発見も多い。例えば、大体のthe GazettEファンにとっては新発見であろうスウェーデンのメロディックデスバンドIN FLAMES。のたうつヘヴィグルーヴは臓物を、ツインギターの絡みは脳を掻き混ぜる。Vo.アンダース・フリーデンのグロウルはもはや地獄。ルーズなテンポ感にフロアは万人規模の首振り人形と化すも、ラストはファストナンバー『TAKE THIS LIFE』で大爆発。続くCrossfaithには登場前から凄まじいコールが響き、その期待を増幅させていく。しかし、大きな期待も軽く凌駕してしまうのが今のCrossfaith。尋常でないエナジーは尋常でないライブ映像となり、モニタースクリーンを通して会場全体に伝播する。また、バンドが持つSci-Fiな世界観も色濃く表現されていた。それが近未来ならば、こちらは原始の生々しさで襲いかかるLamb of God。人の“野生”を呼び覚ます凶暴なサウンドは、フィジカルな躍動感を伴うランディー・ブライのヴォーカリゼイションが合わさることで、破壊と熱狂の衝動を蔓延させる。そんな野獣のごときステージに続くは本物の野獣? というかオオカミ? MAN WITH A MISSIONの登場だ。オーディエンスはハンドクラップ、揃いのアクション、そしてコーラスと大合唱でバカデカい一体感を作り出す。どこか懐かしい音使いやアレンジには普遍的なキャッチーさが備わり、老若男女、国境も飛び越え、誰もが楽しめる仕掛けが随所に散りばめられている。12月3日に配信予定の新曲『Hey Now』もいち早くプレイ。
だがしかし……そんなポップな一体感、ハートウォームな空気は、絶望の深淵へと叩き込まれる。そう、背徳のカリスマMARILYN MANSONが遂に降臨する。会場を震わすほどの歓声にもお構いなし。メリケンサック付きのマイクでそこらを殴る、カミソリで自らの手の甲を切り裂く、足長ピエロ(スティルトクラウン)のような器具を付けた奇怪な姿でのパフォーマンスなど、憎悪や絶望の感情、露わとなった異常性がリアルな恐怖をまとってじっとりと肌にまとわりつく。そうして胸の奥に溜まったドロドロだが、ラスト『THE BEAUTIFUL PEOPLE』がプレイされるや否や、会場がひっくり返るほどの爆発力で逆噴射!! 一流の表現力と一流の演出、そして超一流の徹底主義は追従不可能な世界観を見せつける。同時にそれは、サディスティックな深い愛を感じさせるものだった。
終演後も、その衝撃の余韻は後遺症のごとくフロアに横たわる。でも大丈夫だ。最狂の特効薬が投与される時間が到来した。昨日の完全燃焼ぶりが影響しないか、そんな不安も多少はあったのだが、これまた出音の一撃で消し飛ぶ。二日目も全くもってヤバい! アンサンブルにおいて特徴的な激しい打突音は昨日よりも痛々しく、聴感以外の感覚器にまで響かせてくる。この日も1st[Slipknot]、2nd[IOWA]、そして最新作[The Gray Chapter]からの選曲が中心だが、4曲ほど曲を入れ替えた構成に(個人的には昨日は聴けなかった『PEOPLE=SHIT』にゲキ上がり)。発狂のスペシャリスト達は、あらゆる楽曲に人をイカレさせる仕掛けをわんさと搭載している。さらにこの日は各メンバーのパフォーマンスの激しさ、また自由度が高く感じられた。それぞれの煽りが止まらない。ターンテーブルのシドはパーカッションのドラム缶をもぎ取り、ステージセットの大上段からブン投げて遊ぶ。グロウルが冴え渡っていたPer./Cho.クリスも輪をかけたアジテーション。各自が猟奇的であり偏執狂でありサービス精神旺盛ときてるからたまらない。そして印象的だったのは、ステージを降りる直前のVo.コリィの姿。拳を高々と掲げ、もう片方の拳で自分の胸を何度も何度も叩く。マスクの奥からは真摯な眼差しがフロア全体に注がれる。無言でも伝わる深い愛情にグッと熱いものがこみ上げる。狂気に果てにはあまりにもピュアな感動が、醜悪なマスクの裏には人間味溢れる温もりがあった。
熱狂のダークカーニバルKNOTFEST JAPAN 2016はこうして幕を閉じた。二日に渡り奇跡のラインナップを、噂に違わぬ伝説的なステージの数々を目の当たりにできた貴重な二日間。改めてSlipknotの偉大な功績に感謝すると共に、この奇跡をまた巻き起こしてほしいというのが当然の願望だ。Slipknot自体の今後すらもアナウンスされていない現状だが、最後の機会を観れてよかった!などという結果的な幸運は要らないし、あってほしくない。間違いなく新たな伝説となったこの二日間が、次なる“序章”となることを信じよう。
(文:根本 豪)