21世紀の新世代メタルを代表するバンドのひとつとして音楽シーンを席巻してきたラム・オブ・ゴッドは『ラス』(2009)と『レゾリューション』(2012)が連続して全米チャートのトップ3入りするなど、トップ・バンドへの座を驀進してきた。だが2010年5月24日、チェコのプラハ公演でステージに上がった少年をヴォーカリストのランディ・ブライが押しのけ、その少年が頭を打って死亡するという事件がバンドを見舞う。ランディは無罪となったが、この事件によってバンドは一時活動停止に陥り、その音楽性に影を落とすことになった。
ランディが「凄まじくダークで、多様なサウンド」と表現する『ラム・オブ・ゴッド第七章〜疾風怒濤』は、事件を経たバンドの怒りと哀しみが轟音の塊となって襲い来るアルバムだ。骨がきしむ重低音グルーヴと鋭角的に斬り込むリフはさらに激化、メタルとハードコアの最もエクストリームな部分を抽出してメロディも交えたサウンドは、彼らが15年間培ってきた音楽性の完成形といえる。
リード・トラック「スティル・エコーズ」はランディがチェコ警察に拘留されたパンクラーツ刑務所の闇の歴史を描いている。19世紀に作られたこの牢獄は第2次世界大戦中、ナチ占領下で処刑場として使われ、“銃弾を無駄にしないために”ギロチンが使われたという逸話がある。拘留中にそのギロチンを見たというランディの受けた衝撃が、そのサウンドには込められている。グルーヴ・メタルとモダン・スラッシュをクロスオーヴァーさせた「イレイズ・ディス」、驚異の速度を誇る「フットプリンツ」、ドラマチックに盛り上げる6分半の大曲「オーヴァーロード」など、息をつかせる間もない全編の昂ぶりは、2015年のメタル・ミュージックにおける白眉の瞬間だ。
アルバムのプロデュースは『アズ・ザ・パレシズ・バーン』(2003)以来、彼らの作品を手がけてきたジョシュ・ウィルバーだ。ヘイトブリードやキラー・ビー・キルド、GOJIRAなど、現代のメタルにおける最重要アーティスト達をプロデュースしてきたウィルバーは、ラム・オブ・ゴッドの内面に宿る獣性を解き放つことに成功している。プラハ事件の全貌を捉えた映像作品『As The Palaces Turn』やランディの回顧録『Dark Days』などを発表、ドラマーのクリス・アドラーがメガデスのニュー・アルバムに参加するなど、まさに“疾風怒濤”の渦中にあるラム・オブ・ゴッド。
2015年夏にはスリップノット、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインとの北米ツアーも敢行された。